レモンサワー/リリー
カウンター席でエビマヨサラダをつまみながら
うつむいてiPadを開く
運ばれて来たレモンサワーの
はじける水泡が目の膜を黄色くする
一日の賑わいが静けさになって
ふと、今朝坂道で私を追い抜いていった
うつくしい黒い金魚を思いだす
清潔でまぶしく輝く水泡に
艶のあるウェーブの背鰭を靡かせて
生っ白い脚を生やした金魚が
ローファーで地面を蹴りながら
みえなくなった
グラスの氷を鳴らせば
立ちのぼる香気が
魚にもなれない私の乾いた髪を
潤してくれる
「お兄さん、レモンもう一切れちょうだい」
ひとりでにほどける笑みで声のトーンも上がっていた
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