レモンサワー/リリー
 

 カウンター席でエビマヨサラダをつまみながら
 うつむいてiPadを開く
 運ばれて来たレモンサワーの
 はじける水泡が目の膜を黄色くする
 
 一日の賑わいが静けさになって
 ふと、今朝坂道で私を追い抜いていった
 うつくしい黒い金魚を思いだす
 清潔でまぶしく輝く水泡に
 艶のあるウェーブの背鰭を靡かせて
 生っ白い脚を生やした金魚が
 ローファーで地面を蹴りながら
 みえなくなった

 グラスの氷を鳴らせば
 立ちのぼる香気が
 魚にもなれない私の乾いた髪を
 潤してくれる
 「お兄さん、レモンもう一切れちょうだい」
 ひとりでにほどける笑みで声のトーンも上がっていた
 
戻る   Point(12)