レモンサワー/リリー
 
 待ちかまえていたのか
 折悪しく雨がぱらついて
 遠くない駅までの道を濡れていく

 JRで一駅先の改札を出ると
 もう雨は止んでいて
 踏切の向こう、陽ざしが流れおちている
 滝のうらがわへ消える背中と
 光の隙間をひらいてあらわれる
 ひとの顔とが往きちがう

 (ちょっと一杯)
 墨字で書かれた大きな白提灯に誘われて
 梅雨明け間近の蒸し暑さに
 つい寄り道してしまう
 どんな顔が暖簾をくぐったのだろう
 「疲れてはるみたいですね」
 注文をきく兄さんから挨拶されて
 「うん。今日はレモンサワーにしとこうかな」
 柑橘の香りを頭から浴びたい気分


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