供花/飯沼ふるい
少女がしゃがみこみ
自分の影を古いアスファルトに垂らしている
路地裏、午後三時、大安の日
アパートの二階
アルミの冷たい窓枠に肘をついて
しばらく一人でぶつぶつ何事かを嘆いている彼女を見ている
いつも誰かしらに親父臭いと言われる
ショートホープ
左手に握られた毒素が苦い
「あなたがそばにいないから」
――あなたがそばにいないから。
彼女が嘆いた流行り歌のタイトルのようなことばの上に
厚い雨雲が傾れている
煙草の煙は
そこへ溶け込む遥か手前で散る
もしかすると彼女は
クスリが切れてしまった少女
そういう現代社会の病の表れなのではなく
人の身体を真似た
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