新月の夜/月乃 猫
 
「 新月の夜 」

存在さえも不確かにする 霧が降る

新月とつめたい星の光、みすぼらしいデッキの長椅子のしたに

小さな命が産み落とされる 

白黒タキシードのハチワレと 闇色のクロネコ

ぼろぼろのラグは生誕のしとね 安堵に疲労した母猫が見つめる

雨をさけ わずかな隙間のねぐらに息をする

おめでとう、おめでとう
ようこそ、ようこそ

小さな鳴き声の、いのちへ

誕生の夜会にあつまる生きものたちは、祝いをうたい

眠りに眠る仔猫は、それを知らない

緑のツタのからまる家では

新たな命の生まれたことも

母、父となる その住人たちの寝息さえも

人知れぬ 歓びの贈り物

誰にも気づかれぬ 星降る里の 物語のはじまり


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