ミッキーマウス/無名猫
ドになってた。
ブランドだったはずが、役員名簿に載ってた。
そのころには、誰も
「ミッキーはどう思う?」なんて聞かなくなってた。
偉くなったから? そうじゃない。
台詞が決まってるなら、ぼくに聞く必要なんてないからね。
それでも、今日も考えてしまう。
これはいったい、誰の物語なんだろう?
ぼくは、まだ“ぼく”を演じてるのかな。
脚本は変えられないかもしれない。
でも、せめてアドリブくらいはしたいんだ。
オフィスの端っこで、コーヒーをこぼしてみたり、
議事録の隅にいたずらで、ミニーの似顔絵を描いてみたり。
そしたら、
50年後くらいに、誰かが
その琥珀色の染みや、
若かったころの彼女の笑顔を見つけて、
ふと気づくかもしれない。
「ああ、この会社には、まだ魔法が残ってる」って。
それだけで、少し救われるんだ。
たとえ物語の中の人生でも、
せめて、ぼく自身の手で演じたいから。
「ハハッ!」
今日も言うよ。
台詞じゃなく、祈りのように。
ほんのすこしの魔法を、まだ信じたいから。
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