夜明け前の雨/山人
緑とエゾハルゼミの洪水と、ときおり南から飛来してきたアカショウビンの鳴き声のする季節となった。遅くまで残る残雪から生まれた蚋のメスたちはこぞって人畜に集り吸血しようとアタックを繰り返す。彼女らの目的は餌を求める行為に過ぎないのだが、その究極の目的は子孫繁栄である。それが彼女らの真の目的なのだが、特別な意思などない。ただただ本能のまま動いているにすぎない。なぜならば吸血しようと皮膚に取り付けば、一心不乱なものだからそっと指で押してやれば素直に絶命する。つまり、自分らの命の有無など意に介さないのだ。あわよくば吸血し卵を産むという目的にたどり着くことが彼女らの最終目的だから。つまり季節はこんな風に飽き
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