HELLO KITTY/無名猫
 
を、わたしは覚えていない。でも、それが「わたしの中心」になった。笑顔の包装紙にくるまれて、玩具屋の棚に並ぶ。誰かの夜の寂しさを埋めるため、かわいさの仮面を貼りつけて。

ぬいぐるみみたいに抱かれて、猫みたいに飼われている。「キティ」という名札は、わたしの商売道具。愛されるため、生きるための記号。

チャーミーは自由だ。跳ね、鳴き、逃げていく。わたしは逃げるふりして、ただただ、そこにいる。誰かに触れられるのを待ち、値踏みされるために。うらやましいという心さえ、もう忘れてしまった。

朝が来るたび、わたしは鏡の中の自分を塗りなおす。笑顔を上書きし、肌のうすさをごまかしながら、今日も「キティ」として立ち上がる。

わたしではない「わたし」を生きる。拒むことも、逃げることもできない。せめて沈黙の奥に、たったひとことだけを隠しながら。

HELLO!!

無垢を演じる唇。いつものように差し出された、よく訓練された笑み。

けれどその奥底に、誰にも気づかれない叫びが、密やかに息づいている。

戻る   Point(2)