『春と修羅』における喪失のドラマについて/岡部淳太郎
 
るが、これはよく知られているように死に行く妹としが兄の賢治に向かって「あめゆじゆとてちてけんじや(あめゆきとってきてください賢治や)」と頼み、それに応じて賢治が「おまへがたべるあめゆきをとらうとして」「このくらいみぞれのなかに飛びだし」てゆく。賢治の中ではそのあめゆきはとしが食べる最後の食べ物であるのだが、それはある種の聖餐であるかに見える。仏教の法華経を初め様々な宗教に関心を持っていたとされる賢治だが、ここでのあめゆきはかなりキリスト教的であると言えないだろうか。キリスト教においてはキリストの肉をパンに例え、血をワインに例えているが、ここでの「あめゆき」は「銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
[次のページ]
戻る   Point(3)