春紅葉(おまんとくれは、その弐)/佐々宝砂
 
上には女ばかりが集い、
華やかな宴の席である。
しかし宴の中央にあるものは、
桜ではなかった。
楓の古木であった。
楓の若葉は赤く萌えていた。

 春の紅葉もよいものよ。

笑いながら指差す楓の根元に、
胸を朱に染めた男の屍。
少女はその男を知っていた。
知っていて、嬉しく思った。
少女の裾の血は乾き始めていたが、
少女の心はまだ血を流していた。

あたしも鬼だと少女は思った。




初出 雑誌「詩学」2003・4月 全4作予定
その壱「おまん瞑目」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39002
その弐「春紅葉」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39020
その参「おまん瞠目」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39022

参考文献:鬼無里村史・戸隠伝説他
この連作を書くにあたって「鬼無里村史」の写しを提供して下さった渦巻二三五さんに感謝します。


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