ノート(しずく)/木立 悟
 



井戸の底を
のぞきこむ鳥
わずかに残る
水に映る陽
いとしいしずくであれ
いとしいしずくであれ


うすくゆがんだ光の輪が
影のなかにゆらめいている
にじみと波は
光でありつづけることの
数少ないしるしのように
午後の道をすぎてゆく


陽の名残りがつくる
幻のようなあたたかさ
閉じる扉と
ひらく扉を行き来する
太くやわらかな流れがある


こぼれ
見つめ
浮かび
重なる
ふりはらう手になり
すくいとる手になり
沈みつづけるしずくになり
沈むことのないしずくになる


土に至り
空を仰ぐ
永く光にさらされしもの
失くした色にかがやくもの
名を招ぶ声に応えられずに
ひとり悲しくかがやくもの


溺れぬように
溺れぬように
欠けた叫びをはばたきに隠し
あふれる空にもがきながら
こぼれ落ちるしずくを追って
さまよう光のための荒れ地に
くりかえし鳥は訪れる






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