雨の日/由比良 倖
僕たちの存在も忘れてしまったみたいに、微動だにせず立ちすくんでいたけれど、やがて、下を向いたまま、陰鬱な口調で、
「……そこにも、また、雨が降るでしょう。いつまでも、いつまでも。この、ここの、今と同じ雨が。いつまでも、降り続けるでしょう。だから、僕は、雨が好きなんです」
僕はまっすぐ頭上を見上げた。雨は宇宙の彼方から、僕の眼球へと一直線に落ちてきた。雨は僕の目に染み、眼球の裏側にまで染み渡り、そこで赤い、青い、虹色の光の溜まりを作った。
透子の巻いていたストールがほどけかかり、雨の色に滲んで、彼女自身がまるで、雨の一部になってしまったかのようだった。そのまま空に浮かび上がりそうな微笑みを
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