雨の日/由比良 倖
 
あるようには見えなかった。帰ろうか、と透子を見ると、どういう訳か彼女は泣いていた。或いはただ涙を流していた。
 僕が、「どうかしたの?」という顔で彼女を見ていると、透子は、
「雨」
と答えた。
 それから何かを誤魔化すみたいに急いで少し笑って、
「見て、ねえ、雨。今日は風がなくて、あの黒い雲から、一直線にここに雨が落ちてくるの。高い、高い、高い、高いところから。一万メートルくらいの高さから、ここへ。一直線にね。望むなら、いつまでも、雨を浴びていられる、雨を、私が雨を呼ぶなら、いつまでも、いつまでも、雨は降り続ける」
 そう言って、「私はとてもすごいと思うけど、あなたには分からないかもし
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