あれから/山人
 
てたりはしない。
ありもしない残像を踏み潰したのだからゴミにはならない。
すると、川の音がし、そこにカワガラスの単発的な声が混ざり、いつしか、草も、草を取り巻く空間と静けさも、すべてが一緒くたに僕の体に再び内臓のように分け入ってくる。
ヤニのついた黄色いはずの指は白く、胸ポケットは失せ、口の中のタールの匂いはなくなっていた。
 もしかすると、あの時にタバコをやめていなかったらどうなっていたんだろう。健康を害し死んでいただろうか。でも、僕はあの時、タバコを吸う自分との決別をし、まるで勢いのなくなったこの秋の夕闇の風のようにもう一つの自分を失ってしまったのかもしれない。
ふと、ポケットから人差し指と中指を暗くなった闇にかかげてみた。

2012-10-29
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