聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
 
し始めた。姉は多分、僕しか話し相手がいないので、話し始めると長いのだけれど、僕は姉の声も、しゃべり方も、それから話が佳境に入ったときの意気込み方も、好きだ。
「ああ、正直者の話だったね。正直者は馬鹿じゃないよ。正直者は正直者だよ。正しいひと達だよ」
と律儀に前置きをしてから、エビアンをまた一口飲んで、それから指先を唇で舐め、一度だけ、微かな溜め息を吐いた。
「例えば、私が何かを始めるとする。例えば、そろそろ本気で何か手に職を付けなきゃ、自殺するしかないぜ、ってね。例えば、三十歳までに、うーん、人間関係が面倒ならプログラマーだとか、外で働くなら行政書士だとか、難しいのだと司法書士とか、何でもい
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