『本好きの下剋上』を〈身体の神話〉の物語として読む/大町綾音
『本好きの下剋上』という物語は、通常「本への情熱が世界を変える」という知識欲の勝利の物語として読まれることが多い。だが、もしこの作品を、〈身体の神話〉として、すなわち人間が「生きる」ことそのものの物理的な困難と歓びを描く物語として読むならば、そこに浮かび上がってくるのは、きわめて肉体的で物質的な現し世の重みと、それを乗り越えようとする祈りのような運動である。
物語の冒頭において、マイン(もとの名前は本須麗乃)は、現代日本において健康を享受しながらも、生に倦み、本に没入する形で日常を漂っていた。だが、彼女はその命を絶たれ、異世界に「再生」する。その新たな世界で与えられたのは、虚弱で発熱を繰り
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