『本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』の文学的な価値/大町綾音
「本須麗乃(もとすうらの)、22歳。わたしは本が好きだ。大好きだ。三度のご飯より愛してる。」
──こんな独白から始まる『本好きの下剋上』は、近年のライトノベル作品のなかでも異彩を放つ存在である。物語は現代日本に生きる一人の本好きの女性が突然命を落とし、異世界に転生するところから始まる。ありがちな導入であるが、その先に広がる世界は、単なる異世界ファンタジーではない。本という媒体への執着と、その背後にある文化・技術・言語の発生と継承への深い関心が、本作の大きな核となっている。
まず、本作の中心テーマである「書物への欲望」は、文学的な次元においてきわめて純粋かつ切実なものとして描かれている
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