書かれざる構造を愛する文学──サガン、モーム、フォースターに通底する“起こらない物語”/大町綾音
 
に物語で起こるのは“繋がり損ねること”の連鎖である。知的な女性と実務的な男性、アートと階級、感情と制度──それらが互いに手を伸ばし合いながら、ついに握手に至らない。その不完全な連結の軌跡こそが、フォースター文学の主題であり、構造上の“欠落”を描くための建築的な筆致が彼の核にある。

 ここで特筆すべきなのは、この三人の作家たちが「死」や「不在」を直接的な劇としてではなく、構造的な力として扱っている点だ。死そのものが主題になるのではなく、死が起こりうる「予感」や、「服喪の形式」が、物語の空間に影響を与える。愛される父が生きていることによって、ある男女は恋に落ちない。旅に出た母が戻るかどうか分から
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