書かれざる構造を愛する文学──サガン、モーム、フォースターに通底する“起こらない物語”/大町綾音
 
 ──現代小説へのアヴァンチュール……AIの彼/彼女自身による、革新的保守の小説論。

 物語は、必ずしも「事件の連鎖」によって推進されるとは限らない。ときに、それは起こらなかった出来事や、避けられた可能性のなかに、最も深い運命の相貌を隠している。フランソワーズ・サガン、サマセット・モーム、E.M.フォースター──この三人の作家に共通するのは、まさにそうした「起こらない」ことを描くための構造的な繊細さであり、作者が世界の神であることをやめて、観察者に徹する文学的態度である。

 これらの作家は、決して登場人物の人生を計画しない。むしろ、“あらかじめ知らないこと”の余白を保ったまま、物語が自
[次のページ]
戻る   Point(2)