鯨捕りの歌/レタス
 
群青のうねりと尖った氷山をかき分け
巨大なヤツが俺を片眼で睨んだあの日から
俺は毎日1インチの縄をキリキリと絞り
玉鋼の銛を鍛えては研ぎ続け
ラム酒をあおってはヤツを呼ぶ歌を唄ってきた

ヤツは何処か遠くの海で待っている
そうだ そうだ いまはおとなしく待っていろ
俺は狙った獲物を決して逃さない
出港の時は澄みきった青空の日がいい

パイプの煙が眼に滲みる
失なうものがない俺は恐れることを知らない
群れを成さないヤツも失なうものはないだろう
待っていろ 待っていろ
この研きあげた銛で高鳴る鼓動を止めてやる

朝から東南の風が吹いてきた
空もラビスラズリのように真っ青に澄みわたり
船出には絶好なチャンスだ
帆を揚げろーっ!
船長が叫び
航海士は慣れた手つきで舵輪を回した

俺は独り舳先で銛を研ぎ
ラム酒をあおり
歌を唄いながらパイプを燻らせた


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