『薬屋のひとりごと』における「恋愛システム」と「文化システム」/大町綾音
 
ことこそがジンシを“人間にする”作用を持つ。恋愛が進行するたびに「権力」や「属性」が脱ぎ取られ、個と個の距離がゼロになっていく。

 このような構造は、恋愛を“力の均衡装置”として描く戦後少女マンガの系譜を想起させる。恋とは、社会的な記号を無力化し、「ただのわたし」と「ただのあなた」を並べる試みであり、同時にそれが困難であることへの静かな悲しみでもある。

 マオマオがジンシの正体に気づいても距離を保ち続ける姿は、「自立を守ること」と「相手を対称として見ること」との間の、緊張の綱渡りなのだ。

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IV. 文化システム──“知識”と“身分”の交差点

 また、本作が描くも
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