遠泳/
 
静かに閉じたその目が
最期に何を見ていたのか
何か言おうとしていた
半開きの口に
問いかける声はもう届かず
涙が頬を撫でる
柔らかかった手は冷たく
黄ばんだ肌は蝋人形のように
固まってしまった
こちらは動くことを強いられ
事務的な手続きに溺れる
金額のこと
苦手な親戚のこと
沈まないように泳ぎ切ろうと
神経を麻痺させて淡々と
悲しみよりも
一連の面倒に潰され
棺桶に花を置いても
現実が指から零れ
自分ごとからは程遠く
これで最後なのに
燃やされている間も
親戚の視線に縮こまり
居場所無く立ち尽くしていた
堪えた時間の後
燃え尽きて出てきた骨の
説明は頭に入らず
白い欠片を見つめる時が過ぎ
壺に納まった骨を抱え
どうやって帰ったのか
気づくと家で座り込んで
膝に時間が落ちると
一日を泳ぎ切った
疲労混じりの悲しみが
じんわり体を包んで
静かになった空間に
思い出の影が粒子となり
ホログラムのように
浮かんでいた
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