ナイトウォッチ*/ひだかたけし
 
もはやとほい昔の
父親の葬儀の折、
一番哀しそうな
顔をして居た
普段一番欲深かった叔母さん

昨夜の夢に出て来たのは何故だろう

そう云えば今夜は満月なのだと
ふと想う

天空より抉り出され浮き彫りになり
やはらかやさしくわたしをあやし

あらっ、たけしくん
あの時の叔母さんの
か細くすきとほる声
何十年かぶりに顔を合わせた瞬間の
その響き方の
記憶の奥の声との余りの違いに
驚きながらも僕には構う余裕無く
その昔よりほっそりと痩せた
真白い細面の目の端に焼き付いたまま
妻と娘を連れ死に目に立ち会えなかった父の
遺体の安置された部屋へと急いだ


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