風に逆らわず、時代に寄り添わず──西行の文体とその孤独/大町綾音
……あるいは、一編のミステリーとして。
西行ほど、文体という皮膚に自らの内面を刻みつけた詩人はいないのかもしれない。彼の和歌は、一見してたおやかで、自然と融けあうように静謐だ。だが、丁寧に耳を澄ませばそこには、どこにも属しきれない者の息づかいがある。古今の抒情と新古今の象徴、そのどちらにも属しない揺らぎの調べ。それは、時代の裂け目に佇む者だけが持ちうる声だ。
「古今集の調子で詠め」──それは弟子たちに対する西行の助言であり、同時に彼が生涯抱き続けた幻の自画像でもある。『西行上人談抄』に記されるように、彼は「古今集を本とすべし」「特に雑部をよく読め」と語っている。だが、私たちが読む西
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