百葉箱のなかの祈?書。/田中宏輔
 
日向(ひなた)』)
たやすく傷つけられるものは恒常なのだ。
            (オスカル・レールケ『木の葉の雲』淺井眞男訳)

たぶん休み時間のことだったと思う。学校からそう遠くないところで、火事があった。後ろの方から、火事だと叫ぶ声がして、生徒たちが、いっせいに窓辺に近寄った。みんなが、わいわいと騒ぎ出した。その火事を眺めやる顔の中に好きな友だちの顔があった。その顔も笑っていた。誰かの家が焼けているというのに。そこで誰かが苦しんでいるかもしれないというのに。怖くなって、友だちの顔から目を背けた。こう語った後、彼は言った。他者が自分ではないことが、あらゆる苦痛の根源である、と。


沈む陽(ひ)の最後のきらめきとともに
          (ゲーテ『若きウェルテルの悩み』第一部、井上正蔵訳)
波の上に
                (ポール・フォール『輪舞』村上菊一郎訳)
むすびめは、はじけ。
          (ヴァルモール『サージの薔薇』高畠正明訳、読点加筆)

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