氷河の朝/ホロウ・シカエルボク
 
ぞましいと思った、とてもおぞましいと思った、それはもう人生である意味すらないものだった、少なくとも俺にとっては、飼犬は知らない、ご主人様がリードを持って来なくても外を歩けることを、そんなことは考えたこともないのだ、気付くとそんなことばかり考えていて、本のページは10分ほどまるで進んではいなかった、ため息をついて本を閉じ、テーブルに置いた、今俺は生活というものがどんなものだったかと考えている、この部屋はあまりにも空っぽで、廃墟のように静かだ、存在していることが申し訳なく思えて来るほどに、でもこれはそんなに長く続くことじゃない、俺にはそのことがわかっていた、人間なんていつの間にかすべてに慣れてしまう、俺はいつだってなにも言わなかった、そりゃあ女だって出て行くわけだよね。


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