四月終わりのメモ/由比良 倖
 

 もし、この世で誰かひとりを救えたら、その瞬間に死んでもいい。

 言葉では何も説明出来ないときには、泣き叫べたらいいのに。薬を飲むと泣くことを先送りには出来る。でも、いつかは泣かなければならないと感じている。言葉を書くことで泣けたらいいのに。書くことと泣くことが同じならいいのに。

(耳鳴りがするほど寂しいことばかり。)

 ずきずきする感じ。感情の骨、棘。真夏の色。予感が色褪せていく。

 心の中の小さな箱に個人的な秘密を入れていたい。

 空もまた歳を取って行くのだろうか? 細胞が老いる音で音楽を作りたい。細胞が分裂する音を録音したい。孤独と悲しみから救われたくなんかない。孤独と悲しみをもっともっと深めて欲しい。僕は、ひとりの人間として、ひとりで泣いていたい。
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