砂の城の考察 #3/まーつん
ない。
「わからない」
私はゆっくりと答えた。
「私にせよ、更生した囚人たちにせよ、彼らを目覚めさせたのは、多分他者の言葉ではなく、自分の内に発見した、なにか、だろう」
私は、そう答えた。
「何らかの書物に書かれた言葉や、誰かに投げられた言葉がその契機にはなったとしても、己の内に共鳴するなにかが無ければ、人は自分の生き方を変えることは出来ない。結局、彼らの歩みを変えさせるのは、彼等自身の意志であり、意志を支える何らかの信念だ」
「では、信念は、何処から生まれるのだ?」
そう問いかける男の、赤くギラギラと光る眼が、前髪の下の暗がりから、私を見つめている。その餓えた狼のような目つきに、私はひるんでしまった。
「経験だろうな」
と、私は答えた。
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