天使/栗栖真理亜
 
ヒトは昔誰でもココロの中に天使の羽根を持っていた
幼い身体を精一杯動かして小さなその手は無心に何かを掴もうとしていた

自分より大きく高く映る周りの景色も
まるで輝きに満ち満ちているようで
好奇心を掻き立てるほどの宝石となっていたのに
いつの間にヒトはそれを捨て去ってしまったのだろう?
芥の間を這い回るゴキブリのように
日常という異臭を放つゴミ箱の中でもがき苦しんでいる

あぁ、優しい記憶が僕を苦しめるよ
破れかけた羽根は何者をも包み込む余裕すらなく
隙間風に揺らされるがまま
朽ちていく日をただ、ただ、待ち望むばかり
柔らかな日差しは透き通る襞の中へと溶け込んで
茶色く醜い印を刻んでゆく

哀しみが僕の頬を伝う時
天使の羽根は天に歯向かうように大きく羽ばたくのだろうか?
黒が白に反転するように何もかもが逆さに回転して
あの幼き記憶へと戻ってしまいたい
たとえそれが許されぬ事だと分かってはいても

光を掴む腕を僕は持ちたい
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