鈴虫のように/栗栖真理亜
 
リリリリンと鳴く鈴虫の
涼やかな音に魅せられて
そっと瞼を閉じて暗闇のなかで味わう
掠れながらも必死に相手を呼ぶ
その切羽詰まった思いが
リズムとなって生を刻んでゆく

誰かに何かを伝えたくて
私たちは体を震わせ
謳うのだろう
命ある限りいつか
誰かの心に届くことを祈って

どんなに幼稚だと笑われてもいい
自分なりの詩が書きたい
鈴虫のように遠くにいる者へと
よく響き渡るように

炭を垂らしたように真っ暗な空の下で
姿は見えぬけれど呼ぶ声は聞こえる

雨粒のように冷たい嘲りも教訓も
闇に消えゆく刹那に
ただ率直に鈴虫のように
声を震わせ謳いたいだけ
戻る   Point(5)