しるし(改稿版)/涙(ルイ)
そういえばあなたは 春がキライでしたね
春は余計に淋しくなってしまうからと
いつかぼそっとつぶやいてたのを
ぼんやり覚えています
今でもやっぱり 春は淋しいままですか
気がつけば桜もとおに散って
5月の風がやさしく頬を撫ぜてゆきます
季節は私たちの意思とはまるで関係なく
勝手に先へ先へと急いでゆきますね
私たちはいつだって
季節の間で置いてけぼりのまま
まるで誰も見つけにこないかくれんぼのように
日が暮れて心細くなって叫んでみても
こだまするのは自分の声ばかりで
生れ堕ちた瞬間に
私たちは大事な片割れを失くしてしまい
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