ハコニワ/栗栖真理亜
 
それから先々へのヒキツケのような畏怖

「自分はもう若くない」なんて自覚したら
そこからすでに老いの始まりで
まだ筋が入るには早い掌で顔を覆う
枯れてしまった雨粒を搾り出したくて
何度も瞼ごと揉みほぐすけど
ただ目の当たりにした
ミニチュアの町だけがボヤけて
時間は逆さ戻りしない

「自分はまだまだいける」なんて嘯いたら
そこからすでに道化の始まりで
ヒビ割れたファンデーションの下で笑う
逆さ戻りから元通りに直したくなって
ジタバタ地団駄踏みたくなる衝動抑えて
何度も顔をしかめ面にさせるけど
今にも動き出しそうな
ミニチュアたちだけが歪んで
嘘まみれの瘡蓋は剥がれ落ちない

真っ赤に塗られた三日月の唇で
僕は眠りこけて
ハコニワのただなか
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