怖い話を聞かせてほしい/佐々宝砂
春の夜はね、
「公達に狐化けたり宵の春」って句を思い出すけど、
思い出すだけ、
ここに狐はいない、
いても狸なんだよね、
それにきっと公達に化けるような、
そんな気の利いたモノノケはこない、
驚きもない、
不思議もない、
洒落っ気もない、
洒落にならない怖い話もない、
ねえお願い、
怖い話を聞かせてほしい、
ジワジワ怖いのもいいし、
びっくりさせてくる系でもいいし、
不可解不条理系もいいな、
もちろん単に凄惨でグロいのもすてき、
でもわかると怖いやつはあんまり好きじゃないな、
本当に怖いのは人間ってお話は微妙かな、
だって人間怖いの当たり前だし、
ねえ聞いてる?
前はあんなにもたくさんたくさん、
怖い話をしてくれたのに、
とても怖そうな顔で話してくれたのに、
もう何にも言わないね。
死体は話せないものね、
あなたを死体にしたのは私だけどね、
だってあなたは怖がるばっかりで、
ちっとも怖がらせてくれなくなったんだもの。
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