刹那の水温/栗栖真理亜
こころに刻むように君の面影を想い浮かべ君の名前を呼ぶ
胸の奥底から沸き上がる慈しみが私をヒトとして在るべき姿へと蘇らせ
愛しさが果たせぬ夢を苛む
君の幻が湯船の小波に揺られて煌めいていた
柔らかな感情が私に囁きかけては消えてゆく
刹那に流した冷たい涙は私の頬を伝い落ち
やがて生温いお湯の中へと溶けてしまった
けれど、君の温かな眼差しは私の脳裏から消えることはない
あぁ、君の微笑みが私の最奥をえぐる凶器となり得ても
君の瞳にしまいこんだ輝ける太陽は
私の気持ちの裏でいつまでも真っ赤に燃え盛るだろう
君というヒトが存在する限り
私は一生をかけて君の記憶が不本意に消え去ってしまわないように
こころの宝箱(ハコ)へと大事に仕舞い込んでいるだろう
それが唯一、君への抵抗
それだけが叶わぬ恋に苦しむ私の中の道化を嘲笑う手だてとなりうるから
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