迷子の朝に/由比良 倖
 
嬉しさを愛の形に当て嵌めて今日も誰かを恋しに出かける


脳内で育った角があと一秒、あと一秒で頭皮を破る


須賀敦子だけを読んでる春の朝、親類なんてひとりもいない


マグノリア大事なことを教えてくれる寂しさだけが人生だったと


贅沢な孤独なんかは要らなくて宇宙の端からこぼれ落ちたい


誰もいない川原の底で腐り行く兎の眼から始まる宇宙


書き言葉、リアルとフィクション織り混ぜて今を宇宙に置き換えてみる


この部屋は宇宙のどこらへんだろう? 時空の裏を電車が走る


三月の迷子の朝にヘッドホンだけを頼りに海へ飛び込む
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