紙の雛/そらの珊瑚
 
何気なくひらいた
絵本の頁のなかに
千代紙で折られたお雛様が
はさまれていた
どうしてそこにいたのか
記憶をさらっても
出てくるのは
春の真水ばかり

けれど
そのお雛様には見覚えがある気がする
気がするだけで
懐かしさというあたたかさを
共有したいだけなのかもしれない
まがいものの記憶だったとしても
それはそれで今日はいい

もものはな
みらいをしらないおさなごを
あやすやさしいことのは
ふりそそがれる
ひのひかり
ねがい

たどたどしい筆致で描かれたひいなの顔が
笑ってわたしを見てくる
ここにいたよ

伝えたい
もうだれの災厄も引き受けなくていいよ と

赤い花模様の紙の着物は
うすく
色あせたけれど

ここにいたんだね

祭りのあとは
いつもさみしい




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