春が殺しに来る/ただのみきや
い真を嗤い
あげくことばも白ばみかけ
夢の油膜も閉ざされて
ご覧 あの山々
女神のうたたねは千年万年
時の小川の歌声に
覗いて映る己の影をそう呼ぶか
流れ去る枯葉の舟に刹那を託し
それとも深く目を凝らし
流れの底で動かない
よどみの石をその名で呼ぶか
いま踵を返すよう
流れに逆らい閃光を放つ
ひとつの魚の幻をそう呼ぶか
────なにを見た
疾うにことばを剥ぎ取られ
幽霊は視姦の嵐の中だ
水底では薪がくべられ
かつて堕胎されたものが
いま世界を身ごもって
────どこを見ている
ぼんやりしないと見逃すぞ
信じるな信じろ
あきらめるなあきらめろ
神が拾い上げたおまえの奇行
その掌に握られた骨片について
おまえの理性はなにも語らない
咲け生贄のように沈黙を侍らせて
(2025年3月19日)
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