春が殺しに来る/ただのみきや
 
古い春から拝借した日差し
駐車場に広がるさかしまの空
壁の青い文字に突き当たり
瀕死の瞳が溺れている
手繰った紐の先 括られた死体
行方知れずのわたしの姉と
よく似た人形 よく似た季節


ことばと気持ちの間の闇
繰り返す生活の環の中で
踏み外すこともできずのけ反って
力尽きた二十日鼠
欲望の犬かきで
暗い海の底へ沈んでゆく
からみつく触手に涙腺を喘がせて
歓喜の黒 暴発の眩い黒  


雪どけの鏡に映り込む
風の足跡 ささやき吐息
形見噛みしめ口琴のよう
裏返された痛みを奏でれば 
こぼれ落ちるのは石ころばかり
嘘と真を秤にかけて
目方足りない真
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