野/岡部淳太郎
 
ただ広いだけの野に立たされて
私たちは呆然としている
野は広いだけで
本当に何もない
こんな場所で
何も持たされずに
何の約束もないままで
いったいどうしろと言うのだろう
私たちの戸惑いは当然だが
野は答えるはずもなかった
私たちの生きる意味とやらは
野に降る雨や
落ちてくる鳥の羽根とともに
野に沁みこんで曖昧になってしまった
そうして何もせずに野に佇んでいるうちに
私たちは知らないうちに
大きな遅刻をしてしまっていることに気づく
だが その時はもう遅く
私たちが野にたどりついてから無駄にした膨大な時間と
その間に感じたものたちの総量に
私たちは押しつぶされそうになっていた
すると その様子を野の草が笑うように風にそよいで
それを私たちはある種の優しさや
癒しのようなものとして
受け取るしかないのだった



(2025年2月)

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