谷川俊太郎の「孤独」の現代性について/岡部淳太郎
個のくさみのようなものがほぼ感じられない。逆説的に言うと、だからこそこの詩人が戦後詩の中でまれな詩で食って行くことが出来たのだとも言えるだろうが、その個を感じさせないたたずまいもまた、ある意味現代的だ。
後期の詩集の代表的なものに『世間知ラズ』があるが、「世間」というものは普段我々が思っている以上に日本的伝統の価値観に出自を持ったものだ。そんな「世間」を知らないのは、現代的と言えはしないだろうか。この感覚もいかにも谷川俊太郎的であるし、世間から離れて個のくさみを消して黙々と詩の世界に耽溺する詩人の孤独の姿が容易に想起される。
谷川俊太郎とは、現代的な孤独の感性を持ち、それゆえに成功し国民的詩人になりえた稀有な詩人であると言えるだろう。
(2025年2月)
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