バレンタインのマボロシ/ひだかたけし
 
掴み所のない
街並みの奥行きが
青い朝の光彩に消えていき

足を運ぶ人、人、人、
自らのそれぞれの奥行き
取り戻しながら、

今までオマエが見ていたのは全て幻

自らの頭蓋を取り巻く思考の囁き、

眼前でよろめいている
自転車を押す老人が難儀そうで
想わず手を貸そうとすると
眉間に皺を寄せ睨み付けて来て

あゝこの人にはこの人の奥行きがあるんだったっけ

改めてそう気付けば 、

手巻き時計は既に止まり
けれども、
もうゼンマイを巻こうとはせず

一面の青に穿たれる
それぞれに輝き増す色彩から
黒い軛が解き放たれるのを
しっかり見届けると、

僕は僕の小部屋へ還っていく





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