ふと悲しみの星は流れる/秋葉竹
 
そのとき聴こえた
忘れられそうもない歌声の持ち主に
ふと
ちょっとだけ
軽めのキスをしてみたいなと
その歌を歌う唇に
『歌っちゃ、ダメ』って
目で語ってさ
そんなシーンがその奇しき白昼に
あってもよいのではないかと

羽ばたくアゲハ蝶が幻だったとしても
のけぞる快感の背骨が陶酔だったとしても

そのときには忘れられない
真新しい静謐が
瞳のおくに静かな喜びをたたえて
揺蕩っているのだと想う

夜は
またべつのせつなさを
嘘みたいに遠いところで憶えたりする

そして不眠の静けさのかなしみみたいな
夜は更け

更け

明け

そしてしっかりと
[次のページ]
戻る   Point(2)