ふと悲しみの星は流れる/秋葉竹
そのとき聴こえた
忘れられそうもない歌声の持ち主に
ふと
ちょっとだけ
軽めのキスをしてみたいなと
その歌を歌う唇に
『歌っちゃ、ダメ』って
目で語ってさ
そんなシーンがその奇しき白昼に
あってもよいのではないかと
羽ばたくアゲハ蝶が幻だったとしても
のけぞる快感の背骨が陶酔だったとしても
そのときには忘れられない
真新しい静謐が
瞳のおくに静かな喜びをたたえて
揺蕩っているのだと想う
夜は
またべつのせつなさを
嘘みたいに遠いところで憶えたりする
そして不眠の静けさのかなしみみたいな
夜は更け
更け
明け
そしてしっかりと
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