ヴォカリーズ、幼年期のための/あまね
かすかな気体が母音をまねて
つつましく
遠くの空をながめる子
瞳に映る季節、また季節
繰り返される慈しみ
陽射し
向こう側へ手をふる
帰れないと知っても
魂は旅をするかしら
平行線をたくさん引いて
けして交わらないかわりに
ずっと見つめあうような
色塗りに飽きては
パレットを放り
乾いていくとりどりの
うらめしい声をきく
小さな体は風に飛ばされそうなのに
もっと小さなものたちを守らなければならないなんて
ひぐらしの声がする
泣き止まない子を
泣きながらあやす子
安らぎはどこにあるかな
誰も知らない場所にあるかしら
つめたい板敷の木目を数える
天井と対の綾模様
遠いお空のずっとずっと奥に
秘密の船が係留されている
きっとどこへでもゆけるんだって
見えない歌い手がかぼそく笑った
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