メモ/はるな
の部屋にはいくつも鏡がある。大きいものと中くらいのもの、小さいもの、折りたたむもの。ガラスと、鏡と、植物がある。この部屋は良い。三年済んで、やっと少し馴染んできた。
体じゅうつめたいのに、どうかすると手のひらだけわあっと熱くなるときがあって、はやくあれに触りたい。あれっていうのは、透き通った氷の山、だれにも踏まれていない雪の道、水を取り替えたばかりの花瓶の表面、だれかのうちの玄関に置かれたつやつやの犬の置物。そういうのを心安らかに思い浮かべながら、眠たい。眠たいのは恐ろしいことでないはずだったのに、今はそうじゃない。隔たれた道の向こうにいる自分自身が、まだ眠る時間じゃない、おーいだめだよ、と言っているのだ。遠くで。
だから今、わたしが考えているのは、鈍くひかる光について、まるくてつめたい石に触れること、白い花を買ってこよう、何が食べられるのかわからない、眠たい、目縫ってはいけない、苺についてまるで何も思い浮かばないこと、ベランダに干した恋を、夫が帰ってくる前にきちんと取り込まなければならないということ。
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