地下鉄の思い出/板谷みきょう
しまった
行きと帰りの地下鉄の車内で
南北線と東西線の
乗り換えの待ち時間を含めて
どんどんと読み進めていった
最終章を読み始めたのは
帰りの地下鉄
東西線の中だった
乗換駅の大通りに
近付いた頃には
溢れてくる涙を
胡麻化すのが精一杯だったのに
止めることが
出来なくなってしまっていた
そして最後のセリフの一文
「アルジャーノンのおはかに
花束をそなえてやってください」を
読んだ時に
切ない程の哀しみに
堪え切れず
嗚咽を漏らして
大通りに着く前に
地下鉄を
降りてしまったのだった
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