蛇の話/はるな
 
か言うのだった。

一度だけ、そのひととの逢瀬に蛇を連れていったことがある。
蛇はわたしの視線を拾うように見つめながら、でも寄ってはこなかった。

そのひとは、わたしの肌や髪やしぐさを褒めたが、
決して触ることはなかった。
わたしが触れようとすると、なんだか透けたようになって遠いのだった。

あなたを愛する余地がない、
とそのひとは言った。
余地?
わたしは笑ったと思う、だって、余地。
そのひとは何ごとかの余ったところでやっと人を愛そうとするのだ。

愛じゃなくてもいいのに。

それはもっとできない、とそのひとはまた言った。
愛じゃないものを置いておく余地はもっとない。これまでも、これからも、
ずっと。

じゃあそこは、
(何で満ちているの)、と聞こうとしてやめたのは、
蛇が、つめたい腹を指に押し付けてきたからだ。

そのひととも、蛇とも、分かたれて久しい。
でも、思い出す。街中で、電車で、ふと立ち寄った展望台で、
恋人たちの、熱を持った視線を目撃するたび。
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