祭りのあと/栗栖真理亜
んざ、お前もなかなか良い度胸してるな」
男は煙草臭い手で僕の体を撫でた。
「お前もこれで大人の味を覚えて一人前になったっていうわけだ」
まるで自分がそれを覚えさせてやったんだぞと言わんばかりに男は自慢気に胸を張った。
僕はスルリと肩に掛けられた毛布を払い除けると、男の口許に人差し指を指し当てた。
「このことは絶対に友達にも先生にもお父さんお母さんにも言わないから、おじさんも絶対周りには言わないでよ」
「お、おう……もちろんだ」
男は気迫に負けたのか曖昧な言葉でお茶を濁し、僕の真剣な眼差しにただうなずくだけだった。
こうして僕は大人によって一歩大人になった。
しかし、これは誰にも話すことはない。
長月の祭のあとの話である。
了
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