ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
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前掲の狭野茅上娘子の歌を読み、その情念の激しさに打たれて、わたしは、これまでの自分が、愛というものに対して、ずっと誤った視線を投げかけていたのではないかとさえ思われたのである。「世界はすべての人間を痛めつけるが、のちには多くの人がその痛めつけられた場所で、かえって強くなることもある。」(ヘミングウェイ『武器よさらば』第三四章、鈴木幸夫訳)「多感な心と肉体を捻じり合わせて愛に変えうるのは苦しみだけ」(E・M・フォースター『モーリス』第四部・42、片岡しのぶ訳)。「苦しみは焦点を現在にしぼり、懸命な(ヽヽヽ)闘いを要求する。」(カミュ『手帖』第四部、高畠正明訳)「苦痛が苦痛の観察を
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