ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
訳)のごときものである。「神の心臓の鼓動」という言葉はまた、ボードレールの「自我の蒸発と集中について。すべてがそこにある。」(『赤裸の心』一、阿部良雄訳)といった言葉を、ただちに思い起こさせる。サッフォーのこの詩は、わたしが完璧に暗唱している数少ない詩の一つである。記憶する際に、韻律は実に効果的であった。この韻律は、瞬時に、そして永遠に、わたしをこの情景のなかに立ち戻らせる。そうなのだ。この詩は、わたしをその情景のなかに瞬時に投げ込み、瞬時に展べ拡げるのである。無限に拡大するのである。その情景のなかに、わたしの「現存在を無限に拡大する」(ノヴァーリス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)のである。
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