ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
バーナ』すべてが愛を打ち破る、木村榮一訳)「自身の思考から発したものに違いはない」(プルースト『サント=ブーヴに反論する』サント=ブーヴとバルザック、出口裕弘・吉川一義訳)。愛というものは、つねに見出されるものである。「その愛が形を変えて」(サバト『英雄たちと墓』第?部・4、安藤哲行訳)、言葉となって、光となり、音となったのである。言葉となって、わたしのなかに折りたたまれていた光や音が解放されたのである。あの夏の日の日射し、あの真剣な彼の眼差し、あのまぶしかった彼の面差し、彼という彼のすべてが一つの光だった。声など交わすこともなく手を触れ合い、黙って唇を重ね合ったあの静けさも一つの声、あの沈黙も一
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