ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
歌は、高安国世の作品と、前川佐美雄の作品である。
浴槽の如く明るき水の中かさなりて静かに豆腐らはあり
生きてゐる証(あかし)にか不意にわが身体割きて飛び出で暗く鳴きけり
人間とは、天の邪鬼である。感情とは、天の邪鬼である。知性とは、天の邪鬼である。対立した願いを同時に持つ、矛盾したこころを持っているのである。この二つの歌に響いている子音のkの音は、音調的な美しさをまったく持っていない。むしろ、音調的な美しさを、わざと壊すか、あるいは、無化するようにつくられているような気がする。この子音のkの音の響きは、ホラー映画やそれに類するテレビ番組のあの不気味な映像とともに流される音
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